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東京高等裁判所 昭和54年(う)2371号 判決 1980年2月06日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人森吉昭三作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。

第一控訴趣意第一点は、法令適用の誤りを主張し、原判決は、被告人の行つた原判示第一の昭和五四年五月二六日の呑み行為と、同第二の翌二七日の呑み行為とを、刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものとして、併合罪加重の規定を適用のうえ処断しているけれども、競馬法に定めるいわゆる呑み行為の処罰規定が、刑法第二三章の「賭博及ヒ富籤ニ関スル罪」よりも重く処罰する法意に出たものと解すべきであること、これら犯罪は、財産上の収益を目的とし、同種類の行為を継続的に繰り返す慣習的行為として、犯意の同一性、継続性が認められることなどからみて、右二日間にわたる本件第一および第二の各行為は包括一罪と解するのが相当であるというのである。

記録を検討すると、原判決が、右両日開催の日本中央競馬会の行う昭和五四年第三回東京競馬第三日目および第四日目の競走に関して、被告人の行つた各呑み行為を、刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものとして、法令を適用処断していることは、所論のとおりである。ところで、いわゆる呑み行為、すなわち競馬法三〇条三号にいう「中央競馬又は地方競馬の競走に関し勝馬投票類似の行為をさせて利を図」るとは、これら競馬の競走に関して賭事をなし、あるいは富籤を発売する行為であるから、複数の客を相手に複数の賭事をなすことをも当然予想するものであつて、たとえ客数や賭事の回数が多数にわたるとしても、同一開催日の競走に関するものである限りは、これを包括的に観察し、一罪が成立するに止まると解せざるをえない。しかし、複数の開催日の競走に関する呑み行為についてみると、もともと呑み行為は、複数の開催日の競走に関するものであることが、当然であり、あるいは通常であるとはいえないばかりでなく、ある開催日の競走の終了の時刻と次の開催日の競走の開始の時刻との間には、相当の時間の経過があることを考えると、社会通念上、もはやこれを一罪と解することはできず、開催日一日ごとに一罪が成立するものと解するのが相当である。本件被告人の呑み行為が、同一競馬の同一回の開催に含まれる、連続した二日間の競馬の競走に関するものであり、被告人が、継続して呑み行為をしようとする意思を有しており、また、その呑み行為の清算を、毎週一回金曜日にまとめて行つていたとしても、このことが本件呑み行為を一罪と解する根拠とはならない。

本件につき、競馬法三〇条三号違反の二個の罪が成立し、これが刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものとして、併合罪加重の規定を適用処断した原判決には、法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。<以下、省略>

(綿引紳郎 藤野豊 三好清一)

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